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土山人

Ⅱ 系譜 兵庫・芦屋(東京では池尻大橋・中目黒) 2026-10-17 東京 土山人

土山人の蕎麦

この蕎麦は何か

関西から東京へ来た系譜である。

蕎麦の系譜で、関西から東京へ来た例がないわけではない。砂場は、大坂で生まれて江戸に渡ったとされる(砂場の記事を参照)。ただ、それは江戸時代の話である。

その後の東京の系譜は、外へ出ていくことが多かった。藪も更科も、江戸から各地へ暖簾が渡った。翁・達磨は東京の教室から生まれ、山梨、広島、大分へ移っていった。

土山人は、その流れを逆に進んだ。1998年に兵庫・芦屋で生まれ、10年後に東京へ店を出した。砂場から数百年をへだてて、もう一度、関西の蕎麦が東京へ来たことになる。

始めた人は、蕎麦屋の家の生まれではない。くじら肉の店を継ぎ、輸入雑貨の会社を作り、震災で被災して蕎麦打ちを学んだ人である。店の名前は、器を焼いた陶芸家から譲り受けた。

そして、育てた店を「のれん分け」で独立させていく。公式の一覧に、巣立った店の名前が並んでいる。


判別条件

  • 玄蕎麦の買い付けから石臼挽きまで、すべて店で行う自家製粉
  • 伝統とモダンを合わせた、隠れ家のような空間
  • 器にこだわる
  • すだち蕎麦。温かいすだち蕎麦が品書きにあり、冷かけすだち蕎麦は期間限定で出る
  • 京都・祇園の原了郭の黒七味

粉を、全部自分の店で

開店のときから、蕎麦の実の買い付け、磨き、石抜き、選別、皮むき、石臼挽き、打ちまでの全工程を、自分の店で行う体制をとってきた。その日に使う分だけを、毎日挽く。

すだち蕎麦

土山人の名物が、輪切りのすだちを並べたすだち蕎麦である。東京 土山人の品書きには、温かいすだち蕎麦がいつも載っている。冷たいかけ蕎麦にすだちを並べた「冷かけすだち蕎麦」は期間限定で、夏の名物とされるが、10月中旬にも食べられた。

土山人が元祖だとする説がある(★通説。店自身が元祖と書いた資料は見つかっていない)。東京ですだち蕎麦の流行を広めたのは、この店だとされる。

オーナーのオリジナルの品で、すだちは徳島産だという。東京 土山人では、時間がたつとすだちから渋みが出るので、気になる人はすだちを小皿に出すよう、店の人が教えてくれる。すだちは、香りを移したら役目を終えるものとして扱われている。

黒七味

冷かけすだち蕎麦には、京都・祇園の原了郭の黒七味が添えられる。黒胡椒のような香りが前に出る、普通の七味とは違う薬味である。

芦屋の店にも置かれているとする記述がある(★未確認)。ほかの OB の店にも置かれていれば、土山人の系譜を見分ける、小さくても分かりやすい目印になる。


なぜそうなったか

くじら肉の店から

創業者の渡邊榮次は、十八歳のとき、体調を崩した父に代わって、家業のくじら肉専門店を継いだ。

初めは肉を売るだけだった。そのうち、売れ残った肉に手を加えて総菜を売るようになる。小さいころから料理が好きで、お肉がもったいないから、という発想だったという。手作りの総菜は近所で評判になり、店は少しずつ繁盛した。

その後、輸入雑貨の商社を作り、オリジナルの商品の製造と販売にも手を広げた。ファッションの業界とも関わったとされる。

震災で、すべてを手放した

1995年、阪神・淡路大震災で被災した。それをきっかけに、会社をスタッフに譲り、蕎麦打ちを学ぶために一人で東京へ出た。

学んだのは、東京・立石の「江戸東京そばの会」である。家具屋を廃業して63歳で蕎麦屋を開いた貝塚隆雄が、蕎麦屋の玄庵とともに始めた教室で、渡邊はその第8期生だった(★期の数字は紹介記事による)。

修業を終えて芦屋に開いたのが、土山人だった。開業は1998年とされる(1997年とする資料もある)。

翁・達磨の高橋邦弘は会社員から教室へ、竹やぶの阿部孝雄は集団就職から藪へ、港屋の菊地剛志は銀行員から独学へ。土山人の渡邊は、くじら肉の店と雑貨の会社から、震災を経て教室へ入った。図鑑の系譜を並べると、蕎麦屋の家の外から蕎麦に入った人が、何人も新しい流れを作っている。

名前は、陶芸家から譲り受けた

「土山人」という名前は、店で使う器の大半を作った陶芸家の、陶号を譲り受けたものだという。オーナーとは古くからの知り合いだった。

翁・達磨では、師匠が「翁」の名を弟子に譲った。竹やぶでは、師匠の号「二笑」の一字が、弟子の店「玉笑」に残った。土山人は、蕎麦職人ではなく陶芸家から名前を受け取って始まっている。器へのこだわりは、店の名前そのものに刻まれている。

凡愚の客だった

渡邊は、大阪の凡愚に客として通い、蕎麦に開眼したとされる(★通説)。修業ではなく、影響の関係である。

江戸東京そばの会との似通い

土山人の特徴を、渡邊が学んだ立石の玄庵と並べると、よく似ている。

玄庵(江戸東京そばの会) 土山人
製粉 蟻巣石の石臼で自家製粉 全工程を店で自家製粉
蕎麦の種類 二八・十割・粗挽き 芦屋本店は細挽きせいろと粗挽き田舎の二種類とされる(★)。東京は訪れた日は一種類
空間 江戸の古民家に、19世紀の西洋アンティーク 伝統とモダンの融合
器 教室で器と箸まで教える 陶芸家の器。名前もその陶芸家から

貝塚は教室で、そば打ちの技術より、店のポリシーや器、空間を語るという。それが土山人に受け継がれたのか、渡邊が自分で作ったものなのかは分からない(★推論)。

関西から、東京へ

芦屋の開業から10年後の2007年、東京・中目黒に東京1号店を出した。蕎麦の世界では、東京から地方へ出る店はよくあっても、関西から東京へ出る例は珍しいとされる。江戸時代の砂場を除けば、という但し書きがつく。

東京の店は、目黒区青葉台のビルの地下にある。池尻大橋からも中目黒からも歩ける。


誰が定義しているか

師匠の側に、名簿がある

土山人の公式サイトには「土山人のOBたち」の一覧がある。巣立った店を、師匠の側が示している。

翁・達磨と同じ「名簿で一門が分かる」型である。藪や砂場のように、外の書き手が記録するのとは違う。

屋号を持つのは、いまはフジオフードグループの子会社である。

屋号を持つ会社

土山人を運営するのは、有限会社暮布土屋である。

2019年11月、株式会社フジオフードシステム(東証一部・2752)が、暮布土屋の株式90%を取得し、子会社化することを取締役会で決議した。同社の発表は、当時の土山人を「関西を中心に直営店7店舗・のれん分け2店舗を展開する人気の蕎麦専門店」とし、2016年〜2018年のミシュランガイドにビブグルマンやミシュランプレートで5店舗が掲載されていると書いている。

暮布土屋は、いまも株式会社フジオフードグループ本社の連結子会社である。第26期の有価証券報告書(2024年12月期)の「関係会社の状況」に、議決権の所有割合90.0%と記載されている。

店を育ててから、独立させる

公式サイトは、蕎麦打ちやメニューの研究を自由にできるのは土山人だからこそで、軌道に乗った店は「のれん分け」という形で独立する、と書いている。

東京土山人は、2007年に東京1号店として開き、のちに OB の店として独立したとされる(★2019年の独立とする資料による)。店を土山人の名前で育て、育ったところで任せる。翁・達磨が「翁」の名を弟子に譲ったのとも、竹やぶの弟子が自分の屋号で独立したのとも違う、土山人の継ぎ方である。


つゆと薬味

麺:芦屋本店は細挽きせいろと粗挽き田舎の二種類とされる(★要確認)。東京 土山人は、訪れた日は一種類で、中太のコシの強い蕎麦だった。

つゆ:うるめいわしとそうだ節を使うとする口コミがある(★要確認)。関西のだしの名残かもしれない(★推論)。

薬味:せいろには小葱と山葵。冷かけすだち蕎麦には、京都・祇園の原了郭の黒七味が添えられる。


食べられる店

土山人(直営)

店 区分 場所 備考
土山人 芦屋店 直営 兵庫県芦屋市川西町7-3-112 1998年創業。本店
蕎麦 土山人 有馬店 直営 兵庫県神戸市北区有馬町1056 有馬温泉
天神 土山人 直営 大阪府大阪市北区天神橋2-1-18 大阪天満宮
土山人 天満橋店 直営 大阪府大阪市中央区天満橋京町1-1 京阪シティモール8F
土山人 阪神梅田店 直営 大阪府大阪市北区梅田1-13-13 阪神百貨店梅田本店9F
大阪 土山人 阪急32番街店 直営 大阪府大阪市北区角田町8-47 阪急グランドビル32番街28F

★この6軒は地図に出している直営店で、公式の一覧と突き合わせたものではない。

土山人の OB の店

店 区分 場所 備考
東京 土山人 OBの店(独立) 東京都目黒区青葉台3-19-8 B1 2007年に東京1号店として開店。池尻大橋駅から徒歩8分、中目黒駅から徒歩12分
蕎や 月心 OBの店(独立) 東京都目黒区中町2-44-15 祐天寺
手打ち石臼挽き蕎麦 福助 OBの店(独立) 富山県砺波市
四天王寺 はやうち OBの店(独立) 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-12-16
手打ち蕎麦 みたに OBの店(独立) 滋賀県長浜市
守破離 谷町四丁目店 OBの店(独立) 大阪府大阪市中央区常盤町1-3-20
そば切り 鴨嘴 OBの店(独立) 大阪府大阪市東住吉区北田辺1-4-9
蕎麦人 秋 OBの店(独立) 大阪府大阪市中央区伏見町2-4-10 2018年独立

★上は、そば百名店2025に入っている OB の店。公式の「土山人のOBたち」の全体はまだ数えていない。

東京 土山人で、どこまで同じか

  • 蕎麦は、訪れた日は一種類だった。細挽き・粗挽き・太切りの三種類から選べるものと思っていたが、店で聞くと「今は一種類」とのことだった
  • 訪れた日の蕎麦は新そばだった。カウンターの端に、その日の蕎麦の紹介が書かれていた(産地:北海道弟子屈町〈摩周〉、生産者:摩周そば生産組合、品種:キタワセ)。客席の窓には「新そば 打ち始めました」の札
  • 客席の土壁の窓の奥に、石臼の製粉機が見え、動いていた
  • カウンターの前の調理場に、たくさんの器が積まれている
  • 品書きに温かいすだち蕎麦がある。冷かけすだち蕎麦は期間限定で、10月中旬にもあった。ハーフにもできる。原了郭の黒七味と、小皿が添えられる。時間がたつとすだちから渋みが出るので、気になる人はすだちを小皿に出すよう、店の人が教えてくれる
  • そば前と酒の品数が多い。そば前の蓮根まんじゅうには、蕎麦の実が散らしてある
  • せいろの薬味は、小葱と山葵
  • 土日は11時15分開店(平日は11時30分)。順番に案内され、出す順番も聞いてくれる。支払いは QR コードとクレジットカードも使える

食べた記録

土曜日の11時10分にお店に到着。先にお待ちのお客は2組。渋谷から歩くと結構な距離がありますがそれもまた蕎麦通いの楽しみ。平日は11時30分開店だが、土日は11時15分に開店。時間になると店員さんが順番に案内してくれます。1人なのでカウンター席に着席。カウンター前の調理場には沢山の器が積んであり、店名のゆかりを感じる。

蕎麦前がとにかく充実しており、お酒の種類もとても豊富。本日は頂いた温かい蕎麦茶で。事前に調べていた情報だと、蕎麦が細挽き・粗挽き・太切りから選べるのかなと思っていたけど、お聞きしたら今は一種類とのこと。10月中旬の訪問だがまだ冷かけすだち蕎麦が注文できたのでこちらと、せいろ。ハーフも対応頂けるとのことなので、すだち蕎麦をハーフにして頂き、もう少し食べられるので蓮根まんじゅうも追加で注文。提供の順番も聞いてくれます。

最初に蓮根まんじゅうが到着。カリッとした外側と中のもちもちが楽しく、お出汁の香る餡と一緒に頂きます。生姜と塩気がしっかりきいていて、お酒が飲みたくなる一品。上にのっているいんげんもアクセントで美味しい。まんじゅうの中にはプリプリの海老が入っていて、パラパラとかけられた蕎麦の実や、まんじゅうの外側と中身、沢山の食感を楽しめる蕎麦前。

すぐに食べ終わり、次を待っているとカウンターの端に本日の蕎麦の紹介が書いてある。新そば、産地:北海道弟子屈町(摩周)、生産者:摩周そば生産組合、品種:キタワセ。嬉しくなる。

そうこうしていると冷かけすだち蕎麦(ハーフ)が到着。このお蕎麦用の原了郭の黒七味と小皿がついている。時間が経つとすだちの渋みが出るので気になる方はこちらの小皿にすだちをお出し下さいと教えてくれる。蕎麦は中太。コシが強く噛みごたえのあるタイプ。おつゆの味はピッタリ、山形の冷たい肉そばより少し冷たく、すだちの香りがスッとしてゴクゴク飲みたくなる美味しさ。このお店がすだち蕎麦を有名にしたというのも納得の一品。後半に黒七味を少しだけ。通常の七味とは違い、黒胡椒が前面に出た、香りよりも胡椒感を感じる薬味です。

食べ終えて少しするとせいろが到着。薬味は小葱と山葵。つゆは節の香りがして期待が高まる。まずは蕎麦のみ啜る。すだち蕎麦で食べているけど、蕎麦だけで食べると新そばのフレッシュさと甘みを感じられます。山葵を少し付けて蕎麦を啜ってみる。これもあいます。つゆにつけてみると、つゆは辛め、濃いめです。この蕎麦には5・6割つけて食べるのが美味しかったです。蕎麦湯はトロッと濃いめ。この濃いめのつゆにはとても合う。

満足してお会計をする。QRもクレジットも可。入る時に気づかなかった新そばの書の奥に石臼が動いていました。冬の温かいすだち蕎麦も楽しみだなと思いながら、秋の目黒川沿いを歩いて帰る。


出典・確認状況

参考にした資料

  • 土山人 公式サイト「土山人のはじまり」「土山人のOBたち」
  • 日経系の名店紹介「土山人」
  • All About「虜になる冷やしすだち蕎麦 東京土山人(目黒)」
  • 東京土山人 公式サイト、食べログ・予約サイトの店舗情報
  • 江戸東京そばの会 公式サイト/貝塚隆雄の聞き書き(note「家具屋から、自ら挽いた国産そばを使う手打ち蕎麦屋に転身」)
  • 株式会社フジオフードシステム プレスリリース「石臼挽き手打蕎麦専門店『土山人』を運営する有限会社暮布土屋の子会社化に関するお知らせ」2019年11月7日
  • 株式会社フジオフードグループ本社 第26期 有価証券報告書(2024年12月期・2025年3月27日提出)「関係会社の状況」

確度

事項 確度
創業者が18歳でくじら肉専門店を継ぎ、総菜で繁盛させた 確定(公式サイト)
輸入雑貨の商社を作った 確定(公式サイト)
1995年の震災で被災し、会社を譲って東京で蕎麦打ちを学んだ 確定(公式サイト)
江戸東京そばの会で学んだ 確定(日経系の紹介ページ)
第8期生 通説(All About)
1998年に芦屋で開業 確定(公式サイト)。1997年とする資料もある
店名が陶芸家の陶号を譲り受けたもの 通説(紹介記事)
凡愚に客として通い蕎麦に開眼した ★通説
細挽き・粗挽き・太切りの三種類を打ち分けるとした紹介記事 通説。判別条件からは外した
芦屋本店が細挽きせいろと粗挽き田舎の二種類 ★要確認(本人確認による)
東京 土山人の品書きに温かいすだち蕎麦がある/冷かけは期間限定 実見(品書き、2026年10月17日)
全工程の自家製粉、その日の分を毎日挽く 確定(店の紹介)
冷かけすだち蕎麦が土山人の元祖とする説 ★通説(店自身の記述は未確認)
冷かけすだち蕎麦がオーナーのオリジナル、すだちは徳島産 通説(All About)
時間がたつとすだちの渋みが出るので、気になる人は小皿に出すよう店が案内する 実訪(2026年10月17日)
冷かけすだち蕎麦が10月中旬にも提供、ハーフも可 実訪(同上)
軌道に乗った店をのれん分けで独立させる 確定(公式サイト)
2007年に東京1号店(中目黒) 確定(紹介記事)
東京土山人が2019年に OB の店として独立 ★通説
関西から東京へ出る例は珍しい 通説(紹介記事)
砂場が大坂で生まれ江戸に渡った 通説(砂場の記事)
玄庵との似通い(影響があったか) ★推論
うるめいわし・そうだ節のだし ★口コミ
冷かけすだち蕎麦に原了郭の黒七味が添えられる 実見(同上)
東京 土山人の蕎麦が、訪問時は一種類 実訪(店で聞いた、同上)
その日の蕎麦の掲示(北海道弟子屈町〈摩周〉、摩周そば生産組合、キタワセ、新そば) 実見(同上)
客席の窓の奥に石臼の製粉機があり、動いていた 実見(同上)。2台あるかは未確認
調理場に器が多く積まれている 実見(同上)
土日11時15分開店、平日11時30分 実訪(同上)
東京土山人での実食 2026年10月17日
2019年11月7日、フジオフードシステムが暮布土屋の株式90%取得・子会社化を決議 確定(同社プレスリリース)
当時の土山人が直営7店・のれん分け2店 確定(同プレスリリース)
2016〜2018年のミシュランガイドにビブグルマン・ミシュランプレートで5店舗掲載 確定(同プレスリリース)
暮布土屋がいまもフジオフードグループ本社の連結子会社、議決権90.0% 確定(第26期 有価証券報告書「関係会社の状況」)
地図に出している直営6軒・OB 8軒の場所 住所のある12軒を国土地理院で照合し 0〜46m(2026-10-17)。有馬店は DB の住所に「北区」が抜けていたので直した